【書評】~三体~作者の変態的な想像力と理解不能を楽しむ

めちゃくちゃ面白かった!ぜひみなさんにも読んで欲しい!

SF最高の賞「ヒューゴー賞」をアジアで初めて獲得。オバマ元アメリカ大統領やMETA社のザッカーバーグが大絶賛したという、中国SFの大傑作「三体」を読了いたしました。

わたし、普段SF小説が特段好きというわけではありません。田中芳樹「銀河英雄伝説」、アイザック・アシモフの「ファウンデーション」くらいしかまともに読んだことがない人間です。

そんな非SF側の私が読んでもハンパなく楽しめ、「寝る間も惜しんで」読みたくなるめちゃくちゃ面白い作品でした。

超高度な科学技術をもつ三体人が攻めてくる

ひとことでどんなストーリーかを解説すると、

宇宙人が地球を攻めてくる

という単純なもの。誰でもわかるシンプルなストーリー設定です。

しかしこの基本設定にさまざまな要素や細かい設定がこれでもか!というくらい肉付けされていくので、大筋はシンプルながらもとんでもなく重厚なストーリーが全5冊で描かれます。

敵は「三体人」と呼ばれている宇宙人ですが、作中で彼らの姿が描かれることはなく、姿形は読む人の想像力にゆだねられています。そして現人類では想像もできないほどの高いレベルの科学技術を持っています。

とあるきっかけで宇宙のはるかかなたにいる三体人に目をつけられ、「虫けら」扱いされてしまった地球人類(*第1巻参照)ですが、彼ら三体人の攻撃部隊「三体艦隊」が地球に到達するのは400年後のことなのです。

読むと分かりますが、この400年という時間的猶予がさまざまな作中の要素に絡んでくるのです。本当に秀逸なスパイスです。

著者の思考実験

400年後に到達する三体艦隊への対抗策を人類は考えていくことになりますが、人類も一丸ではありません。

自分が生きている間は問題ないのだからなにもしない、する必要はない、と考える人達や、三体人に迎合しようとする派閥などさまざまな意見で人類は分断されます。

人類間で巻き起こる様々な分断の描写はとても興味深いものです。どの立場だとしてもその行動原理は理解できるからです。

「地球が滅びるとしても400年もあとのこと。自分が生きていない400年後の地球がどうなったって構うもんか。だったらそんなこと気にせず、今を楽しく生きられればいい」

と、このように考える人がいても全くおかしくありません。

いまの地球で同じような事態が生じた場合、人類がどのような行動・考えをとるのか、作者の思考実験を眺めているようです。

このような場面に立たされた時、自分は・人類はどのように考えるのかをリアルに考えさせられます。

人類の科学技術の進歩を阻害

高い科学力を誇る三体人。ですが過去の人類の進化の過程から、艦隊が到着するまでの400年の間に三体艦隊を壊滅できるほどの科学技術を地球人類が身に付ける可能性があることを計算により予測します。

そこで彼ら三体人は、科学技術の発展に欠かせない物質の構成要素を研究する基礎科学の進歩を滞らせることで、人類の科学技術の発展を阻むことを考えます。

具体的にどのように実現するのかというと、科学実験の結果を改ざんできるようにしてしまうのです。

正しい実験結果が得られないことにより、人類の基礎科学は停滞することなり、科学力では三体人にはいつまでたっても適わないということになってしまいます。

荒唐無稽に思えるこうした策を実現してしまうのが、三体人開発の「智子(ソフォン)」という陽子サイズのスーパーコンピューターです。

智子(ソフォン)開発

「智子(ソフォン)」は素粒子サイズなのでどこにでも出入り可能です。科学実験の結果を改ざんしたり、人類の会議をのぞき見、盗み聞きできる万能な盗聴器のようなものと思えばいいでしょう。

この「智子(ソフォン)」は全編通して登場する三体人のテクノロジーであり、作品のキーとなるものです。第1巻の最終盤で三体人が開発する工程が描かれますが、一回読んだだけではなんのことやらサッパリです。

  • 陽子をマクロスケールの二次元に展開する
  • 二次元に展開した陽子は三体惑星を包み込むほどの大きさ
  • 二次元展開した陽子に集積回路をエッチング
  • 完了後、十一次元に折りたたむ

二次元に展開するつもりが一次元や三次元にしてしまい、失敗する場面も描かれるのですが、読者の常識では考えられないようなできごとが三体世界で巻き起こります。

著者がまったくの想像で書いているとは思えません。恐らく今現在、人類が解明している次元に関する知識をもとに描かれているはずですが、あまりに未知の世界のできごとのため読んでいる側の理解が追いつきません。

ただ、次元の操作を行うことで、なにかとんでもないことをしているのだということだけは分かります。その意味不明さと不気味さはすごいですし、解明できている知識に基づいているとはいえ、こんなこと考える著者は変態だな、と。個人的には1巻のクライマックスは智子(ソフォン)の開発場面だと思ってます。

智子(ソフォン)により基礎科学のこれ以上の発展は望めなくなり、協議の上に立てた三体艦隊迎撃作戦はすべて筒抜けになります。この段階で人類は詰んだも同然。絶望。

すべてが筒抜けになってしまうという打つ手がない圧倒的不利な状況下で、400年後に訪れる宇宙からの脅威に対して、何世代にもわたって対抗していくことになるのです。

どのように対抗していくのかがまた奇想天外で、それがこの本の醍醐味の一つでもあります。

人類の未来をのぞき見

何世紀にもわたっての人類の奮闘が描かれますので、作中では幾度となく「未来の地球」が登場します。

基礎テクノロジーの進化は「智子(ソフォン)」によって制限されていますが、現在の科学技術を限界まで進化させることは可能となっています。例えば核融合技術が実用化されていて、宇宙船の推進力に使われていたりします。

いまの地球環境で現存する科学技術が進歩し続け、それによって数百年後の人類が「超便利!」な生活を送っているかが描かれています。

超便利な生活は、現存するテクノロジーをもとにしているので、決して実現不可能な夢物語ではありません。近い将来、必ず生まれる実現できることばかりです。

そんな数百年後の人類の未来を覗くことができることも、この本の面白さです。

まとめ

個人的には「智子(ソフォン)」開発が三体人に行われる1巻終盤までは、不穏な雰囲気のなか訳が分からず進んでいくので、読み進める推進力があまり産まれませんでした。

しかし、その後は一気に読み通してしまえるほど壮大な物語を楽しむことができます。また、物語だけではなく最新の科学技術についても知ることができるのも、この本を読む楽しみの一つです。

サイエンス・フィクション(SF)ですが、作中に登場するテクノロジーは最新の科学知識をもとに書かれていて、近い将来実現されるであろうものばかりです。ワクワクすると同時に、ここまで科学は進歩するのだと空恐ろしい気分にもなったりします。

四次元、五次元空間の描写など、ぶっ飛びすぎていて、凡人にはまったく理解できない箇所が多々ありますが、そのような得体のしれないものが実際には存在するという事実に触れられるという読書体験ができるのは非常に刺激的です。

今年、ネットフリックスで映像化されるようです。文章では理解不能な箇所が、映像としてどう表現されるか非常に楽しみです。

絶対におススメですので、ぜひ読んでみて下さい。

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