日常業務として年間何十件も不動産売買を経験している人でも、
自分自身の不動産を売った・買った経験を持ってる人って意外と少ないのです。
不動産業界で働いていると、
良いのか悪いのか分かりませんが、
高額な商品である不動産を取引することに慣れが出てきます。
不動産売買をする人にとっては、
一生に何度かあるかないかの一大事ですが、
不動産業者にとっては数多くある取引の一つでしかありません。
そのギャップを埋めるのは意外に大変で、
それが元でお客さんからクレームが発生したりすることもあります。
「あなたも不動産を買ったり売ったりすることが来れば私の苦労も分かるよ」
と、駆け出しのころ、
お客さんに言われたことがあります。
内心ムッとしたのですが、
おっしゃることももっともなのかなとも思いました。
不動産を買ったことも売ったこともない若造(当時20代)に、
高額商品の購入や売却を依頼するのですから、
当然と言えば当然。
自分が当事者になってみないと、
お客さんの本当の気持ちは分からないのだと思います・・・。
今回、私が生まれ育った自宅を売却することになりました。
恥ずかしながら今回、
生まれ育った思い入れのある自宅を売却することになって初めて、
自宅を売る人の気持ちがリアルに理解できました。
というのも以前は・・・
お客さんから売却の依頼を受けると、
査定を行いに自宅に伺います。
その際売主さんは、
少しでも自分の物件に良い印象を抱くように、
細かいポイントまでアピールする人がいます。
しかし売主さんがアピールするポイントというのは、
主観が入っていることがほとんどです。
「バルコニーからの眺めがとっても素晴らしいのよ!」
「一日中陽当たりが良くて、エアコンはいらないくらいなんですよ」
「このカウンターキッチンは使いやすくて本当に便利」
上記のようなアピールポイントは、
売りやすくなる要因にはなりえますが、
それが原因で、査定価格が大きく上下するものではありません。
確かにそのように売主さんは感じていたのかもしれませんが、
人によっては感じ方、捉え方が違います。
「陽当たりいいっていうけど、それほどでも・・・」
「駅近いっていうけど、10分でしょ?」
と、実際、お客さんがいうアピールを、
すんなり受け入れられない若い自分もいました。
しかし、今回、自宅を売るにあたり、
アピールポイントを考えた時、
「日当たりが本当に良かったなあ」
「目の前に咲く桜がとてもキレイでバルコニーでお花見が楽しめる!」
この2点はどうしても伝えたい!
と、強く強く思いました。
上でも書きましたが、
これらの要素が金額に反映するかというと、
それほど効果はありません。
そんなこと重々承知しています。
だけど!
伝えずにはいられない!
自分の感じているこの気持ちを、
新しい人にも感じてもらいたいし、
そう感じる人に買って欲しいからです。
このとき不覚ながらもはじめて
「ハッ!」
と売る人の気持ちが理解できたのです。
きっと私に今まで自宅の売却を依頼したお客さんも、
そのような想いを持っていたんだと思います。
だけど、その全てを受け入れて、
応えることはしてこなかったはずです。
心の底から申し訳ないと思いました。
トラブルなくスムーズに取引を終わらせる
私はそれさえ遂行できればよいと思っていました。
しかし、それ以上に、
自分の持っている物件への思いを、
少しでも多くすくいあげてもらいたいのだと。
一件一件の取引に
「血」
「体温」
そして
「思い」
それらを通わすことが、
何より重要なんだと思います。
本当に、より一層頑張ろうと心に決めました。